Never lasting lie
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「刹那的イリュージョンと寒空」
リトルバスターズ! / ほのぼの、クリスマス [ 20140 byte ]
わかりやすいネタバレはありません



お題SS第17項目「クリスマス」

折角のクリスマスですので居酒屋ネタに走りました。
むさい男共がメインです。
クリスマスらしく浮いた話も無く、いつものように騒いで呑んでいる野郎共。
しかしそれだけで終わらないのがこいつら、リトルバスターズだった――


これはとても、寒いお話。


.
※注意
この作品にはゲーム「リトルバスターズ!」に関するネタバレが含まれている可能性があります。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





外は極寒だった。
吹き荒ぶ風に身を屈ませ、井ノ原真人はとある居酒屋へと向かっていた。
「うぅ……流石に俺の鍛え上げた筋肉でも、この寒さにはちと堪えるぜ……」
彼は自慢の筋肉を寒気に震わせ、その大きい腕で自らを抱いた。
とにかく寒い。
今日は天気予報では今年一番の冷え込みになるなんて報道していたことを、彼の鶏頭が覚えて
いるわけがなかった。そもそも彼は、テレビや新聞の天気予報を毎日チェックするタイプでは
ない。
「待ってろよ理樹……今から主役のオレが行くんだからよぅ……」
誰にともなく呟いた言葉は、白い息と共に景観に溶けた。









今日は12月24日。
世間ではこの日の夜を「クリスマス」と呼ぶ。









     *     *     *







ガラガラ……と扉を開ける音。
暖房やウォーマーの暖かさが逃げ、代わりに新鮮な空気と共に現れた大男は、衝撃的な光景を
目にした。



























……そこには、煤けた男二人の背中があった。



「はあ!? 理樹が来ねぇだと!?」
真人は鼻息荒く、今聞いた話を反芻した。
「あぁ……」
答える男――名前は棗恭介という――は、暗い目をして答えた。
「俺も何度も電話したんだがなぁ」
もうひとりの大男――こちらは宮沢謙吾という――も、どこか遠い目をしながら語った。
彼の肩に掛かっているリトルバスターズジャンパーも、どこか寂しそうだ。
「あいつ、高校出てから数えるぐらいしか連絡取れねぇじゃねぇかよ」
「あぁ。俺にはわからんが、理樹には理樹なりの考えがあるのかも知れないしな」
「くっ……なんで俺らみたいなむさ苦しいでかい男3人でクリスマスなんぞ祝わねばならんの
 だッッ!!」
謙吾が机に両手を叩きつける。
その衝撃でジョッキや深皿が2cmほど飛び上がったり、更にはボロ机にひびが入ったりしてい
たが、3人は3人共スルーしてみせた。ひとりだけ冷や汗をかいているのは言うまでもないだろ
うが。
「まぁ落ち着けよ謙吾。もしかしたらあの理樹のことだ。今頃女子と」
「「それ以上言ったら殺すぞ?」」
「冗談ですごめんない」
元から婦女子にモテるふたりの最高の笑顔に詰め寄られ、更に肩を万力並にホールドされてい
る真人に、引き下がる以外の選択肢はなかった。
「ったく……。本当なら今頃理樹は俺たちと」
「待て恭介。それはさっきの真人以上に危ない」
「んなこと言ったってなぁ謙吾。お前は理樹と『あんなこと』や『こんなこと』、したくない
 のか?」
「「…………」」
3人の間に沈黙の帳が下りる。
大男ふたりは目を閉じ、今までにないくらい頭をフル回転させて熟考する。
それに倣い、恭介もまた思考の世界へと己の身を預けた。
思い出すは、理樹との数々の思い出。
初めて会った時のこと。新聞に載るようなバカげたことを何度もしてまわった時のこと。高校
生になった時のこと。
理樹の部屋で毎夜やったミッション。
毎晩夜遅くまで――
「「…………」」
更に思考の底に潜ってゆく。
記憶の海に埋もれていた、強烈でいて甘美な誘惑を放つひとつの脳内写真。



  男を誘惑せんとする、流れるような黒髪。
  くりくりとしていながら、若干涙を湛え上目遣いになっている瞳。
  恥らうように紅潮させた頬。
  淡い桜色の、しっとりとした唇。
  完璧に着こなされ、誰よりも似合っている制服。
  全ての「美」を甘すことなく体現した存在が、確かにそこにいた。
  そして彼女は、その痺れるような甘い声を怯えに震わせながら、まるで耳元にそっと息を
  吹きかけるかのように囁いた。
  「うぅ……恥ずかしいよぅ」
  己を抱く、細くて白い肌。
  スカートとハイソックスの間に見える、健康的な足も同じように透き通る白。
  彼女の容姿のどこをとっても欠陥など見つかるわけがなく、それはまるで完成されたひと
  つの芸術作品を思わせた。
  全男子の憧れをそのまま実現したかのようなその体躯に、男たちは「押し倒す」という本
  能的な衝動さえ忘れてしまう。
  そして瞬きさえ惜しみ、ほぼ文字通り食い入るようにその体を見つめていた。
  「……そ、そんなに……見ないで……」
  彼女の目は既に大粒の雫により濡れていたのだが、それは彼女の色香を際立たせることに
  加え、「守ってあげたい」という男の本能を刺激する要素にしかなり得なかった。
  より洗練されたその顔は、いわゆる「神々しい」という形容詞では表せないほどの艶かし
  いオーラを放っていた。
  より一層の恥ずかしさに耳まで赤らめ、更には手で顔を覆ってしまう。が、その程度で美
  しさが隠しきれるわけがなかった。
  手の間から見える、純白に朱を差したグラデーションが色彩を司る顔に見惚れることを抵
  抗する術など既になく、男共はただただ不躾な視線を送り続けることしかできなかった。



それは忘れもしない、あのひと夏の出来事。少年達を成長させ、自らの弱さに立ち向かったあ
の日。
「「………………」」
そして――
「…………ああ、俺が間違ってたッ!」
涙を流しながら、ガッチリと硬い握手を交わすふたり。
「オレもだぜ、恭介ッ!」
真人は自慢の筋肉を歓喜に震わせ、その大きい腕でふたりを抱いた。
とにかくむさ苦しい。
3人はひとしきり咽び泣いた後、仕切りなおすかのように酒を呷った。
「……ふぅ」
「つか、理樹のナオンがああだこうだ言う前に、俺らは自分のことでああだこうだ言う必要が
 あるんじゃねぇか?」
「「…………」」
恭介の言葉に、酒を酌み交わす手が止まる大男ふたり。
「……あ、そうだ! 俺きゅうよう思い出し」
「休養なら今してるだろ?」
「……あ、そうだ! オレきゅうりょう思いだ」
「給料ならちゃんと口座に振り込まれてるだろ?」
「……あ、メールだ。えーっと……おぉ、悪いな恭介、今急なようじが」
「楊枝ならここにあるだろ?」
「「くっ……」」
立ち上がって帰ろうとする姿勢からしずしずと座りなおす大男の様子は、妻に遅い帰りを咎め
られている地位の低い夫のようだった。
「……で? そんな余裕たっぷりに女の話を振ってくるってこたぁ、恭介は女の4人や5人ぐら
 いいるってことかぁ?」
「ああ、4人や5人ぐらいでいいならいるな」
「「…………」」
「…………」
「「………………」」
「あ」
「「はああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」」
その声は最早声として認識されることはなく、近隣住民に「動物園からゴリラだかライオンだ
か、何かよくわからんけど動物が脱走してきたのか?」と思わせるぐらいの雄叫びだった。
「うっせぇなぁ……」
当然恭介の耳が無事であるはずがなく、耳鳴りが響いて潰れそうになっているのをなんとか押
さえながら、ふたりに問いかける。
「お前らだって4人や5人ぐらいいんだろーが」
「…………」
「……恭介。オレらがしてるのは現実での女の話題なんだ。悪ぃな。頭ン中の女は1人として
 数えないんだぜ」
「違ぇーよッ! ちゃんと現実の話だッ! つかお前ら、普段から俺のことどんな目で見てん
 だよッッ!!」
「「ええぇー」」
「それは理樹の台詞だッッ!!」
「「いやいやいや……」」
「それももういいだろッ!」
「「What's?」」
「何語で言っても同じだッ! つか無駄に発音いいなお前ら!」
立ち上がってぜいぜい息をしながら、律儀に突っ込む恭介。
「……おいおい、わかんねぇか? 俺らには」
「言われなくても最初からわかっている。俺たちは仲間だからな」
「ま、そういうこった」
「……そういうこった、じゃねぇ!」
「ガシャン!」と大きな音を鳴らしたところで、恭介は先ほどの謙吾を思い出し、酔っ払った
赤ら顔が一気に蒼白になった。
よく見ると、さっきまでそこにあったテーブルがない。同様に、ジョッキや燗、さっき頼んだ
ばかりの軟骨や鶏皮、モツなど全てのものがなくなっている。
「「…………」」
「…………あ、あれ?」
「「『あ、あれ?』、じゃねええええええええええええええええええええええええ!!!」」
「どうすんだよこの机! ぶっ壊したのは恭介だかんな!」
「ち、ちげぇよ!! 俺じゃない!! 最初に亀裂入れたのは謙吾だろ!!」
「なんで俺なんだ! そもそもこの机に亀裂が入ったのは、真人のその無駄に重い筋肉のせい
 だろうが!」
「はあああああ!? 何訳わかんねぇこと言ってやがんだてめぇ! オレのことはともかく、
 筋肉のことを馬鹿にすんじゃねえええええええ!!」
「う、五月蝿い! ただの筋肉達磨が咆えるな! この猛禽類!」
「……あァ!? やんのかコラァ!!」
「やってやろうじゃないか!!」
「おいてめぇら、俺がいること忘れてんじゃねぇぞ!!」
睨みあう強面の男3人。
そこに偶然居合わせた客の、なんたる非運なことか。
「……あのー……」
「「「…………」」」
そんな中で、何を思ったのかこの張り詰めた空気も大して読まず、おずおずと話しかける女性
がいた。
「……もしもし?」
「「「…………」」」
「…………えと」
「「「うおらあああああああああああああぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」」」
「ひぅっ」
取っ組み合う男共に圧倒されつつも、彼女は逃げ出さなかった。
「……うぅ……あ……あの!」
「「「外野は引っ込んでろッッ!!」」」
「……」
大声で怒鳴りつけられても、今度は彼女は怯まなかった。それどころか
「外野じゃなくてベンチですッ!!」
「「「……は?」」」
馬鹿3人組と同じかそれ以上に、ちょっと頭がアレな人だった。





     *     *     *





話を聞くところによると、彼女の名前は「古式みゆき」というらしい。
「って古式か! 久しぶりだな」
「へぇ……随分とまぁ大きくなって」
「懐かしいな。 一緒に飲むか?」
「本当に久しぶりですね、みなさん。恭介さんも随分とまぁ大きくなったようですね、お腹周
 りとか」
「…………ほぅ……」
「まぁなんだ、ふたりとも落ち着いたらどうだ。折角の再会なんだ、楽しもうじゃないか」
「そうだぜ。ここは恭介の奢りだ、じゃんじゃん飲みな」
そう言って床に落ちているビール瓶を拾う真人。当然中にほとんど内容液は残っていないし、
残っているビールも見た限り飲めた代物ではないだろうが、喜んで受け取るみゆき。
「――ホント美味しいですね。やはり人のお金で飲むって最高ですね」
「誰も奢るなんて言ってねぇし、そもそも落ちたビール飲むんじゃねぇよ!」
「落としたのは恭介さんですよね? で、この机どうするつもりなんですか?」
言いながら、廃材と言われてもおかしくないテーブルの残骸を指差すみゆき。
「……ふ。そんなもの決まっている」
対する恭介は髪を掻きあげ、何かよくわからない決めポーズらしきものを取った。
そして
「ダッシュで逃げ」
「「させるかッ!」」
猛烈な勢いで立ち上がりスタートダッシュを成功させた恭介を、これまた猛烈な勢いでガッチ
リホールドしたのは、言わずもがな真人と謙吾である。
「お前が壊したんだぞ? 責任持てよ」
「そうだ。壊したのはお前だ」
「お前が壊した」というニュアンスを無駄に強調させながら、大男がふたりがかりで押さえつ
ける。
「冗談だ」
「お前の冗談はいつも笑えない」
「同感だぜ」
「ですね」
謙吾の嘆きについて、これには真人もみゆきも異口同音であるようだ。
「ふ……」
一息吐くと、恭介はそれきり遠い目をして口を噤んだ。どうやら壊した机の賠償費用について
思いを馳せているらしい。
「まぁ恭介はおいておくとして」
「まぁ恭介はほっといてだな」
「まぁ恭介さんは気にしないとして」
「少しは気にしてくれよおおおおおッッ!!」
3人が仕切りなおそうとしたところで、恭介はやっと無我の境地からの生還を果たした。
「つーか、逆になんでこれだけの騒ぎになってるのに店員は気付かないんだ?」
恭介が3人に問いかける。
無論、3人は揃って目を背けた。それはもう不自然に。
「なんだよそのリアクション。怪しすぎるぞ常識的に考えて」
ゆっくりと4人を見回す恭介。
謙吾も、真人も、みゆきも、視界の隅に偶然見つけた店員も、その凄惨なまでに青白くなって
ゆくその顔と、木屑の山と化した机だったものから目を背け、冷や汗を掻いている。
「……ふ」
恭介は落ち着き払っていた。己に降りかかった様々な不幸を顧み、貧乏籤全てを引き受けて。
「感傷に浸るなら、それはそれでいいですけどね」
散らばった摘みの中から無事なものを選りすぐり、その小さな口に放り込むみゆき。
昔からは到底考えられないその言動に驚きを隠せないのも山々だが、口の寂しさを紛らわせよ
うと、自分たちも倣って瓶を拾い上げる真人と謙吾だった。
「で、今日はどうしたんだ? 古式」
「どうした、と言いますと?」
「独り酒しに来たんなら、俺らはそろそろお暇でもしようかと思ってな」
「それはお気遣いありがとうございます。でも恭介さん方も、男3人で飲みに来てるんですよ
 ね?」
「「「…………」」」
何ともいえない空気が流れる。
だが、その流れを断ち切ったのは謙吾だった。
手にしていた酒瓶の中身を一気に呷り、静かに床に置く。
「……そろそろ本当のことを言ったらどうだ?」
突然の謙吾の態度の変わりようにみゆきも面食らいながらも、態度を変えずに答えた。
「本当のこと?」
「あぁ、そうだ。お前の顔を見てると……何となくだが、わかる。何か腹の中に溜め込んでい
 るものがあるだろう」
一泊置き、みゆきは自身の腹を見つめ目を細めながら――そして少し頬を赤く染め、呟く。
「……お腹の中、ですか……宮沢さんの子供は入っていませんよ?」
「「…………」」
場が一気に白けた。
「ち、違うッ! 俺は古式にはふしだらな真似などしていない!」
「「……『古式には』、ねぇ……」」
「宮沢さん……」
「だから違う! なんなんだお前ら! 酔ってるだろ!」
「……なんか謙吾の野郎、ツッコミが鈴みたいになってきたぞ」
「あぁ、どちらかというと酔ってるのは謙吾の方だな」
「……。…………むぅ」
そう言われて、少し冷静になる謙吾。軽く呼吸を整えながら床に散乱するコップの中から無事
なものを探そうとするが、一目見ただけでそんなものは残っていないと悟り、諦めた。
「……まぁそれは何でもいい」
結局真人の手から瓶を引ったくり、一息で呑み干す。真人は声を荒げようとしたが、一応場の
空気を読んだらしく、大人しく自分の瓶を明け渡した。
謙吾は今まで体験したことのない辛辣な苦味に身を委ねながら、少し神妙な顔つきになって語
り始める。
「今の古式は……そう、何という言葉が適当なのか……簡単に言えば『取っ付き易くなった』
 って奴だ」
「ふむ……」
「なるほどねぇ……」
「そうですか?」
頷いたのは恭介と真人だけで、みゆきは3人の視線に首を傾げるばかりだ。
「私は特に変わったつもりもないですけど」
「いいや、十分変わったさ。あの時の直前なんて、まるで幽霊みたいだったじゃないか」
「幽霊、ですか」
「それぐらい精気がなかったということだ」
みゆきは儚い笑みを浮かべた。
何故かみゆきがそのまま透き通って消えてしまうのではないか、とチープにも謙語が思ってし
まうほどに。
「俺は古式を責めているわけではない。むしろ喜んでるんだ。それだけはわかってほしい」
「ええ、わかっています。……なんですか?」
ふたりのやりとりを――いつの間に動いたのか、少し離れた場所で――ニヤニヤしながら見守
っている男ふたり。無論真人と恭介である。
「いんや、別に何でもないぜ」
「俺たちのことは気にしなくていい。んじゃ真人、向こうでふたり悲しく飲もうぜ」
「とりあえずお前はこの机を何とかしたほうがいいと思うぞ……」
「…………」
先ほどまでの生暖かい冷やかしの目はどこへ行ったのやら、一変して濁った瞳で見返してくる
恭介だった。









   これが、俺たちリトルバスターズ。

   いつでもどこでも何があっても、俺たちは俺たちらしく。

   迷惑だと白い目で見られても、おかしな連中だと後ろ指を指されても。

   みんなで最高の時間を過ごすため、どんな遊びでも厭わない。

   遊びじゃなくても、みんなと共に。

   俺たちらしく青春を駆け抜ける。









「…………違う……」
「……え?」

涙が落ちる音がした。
ぽつり、と。
それは波紋のように広がっていった。

「…………」

そこに語らう必要なんてなかった。
何もしなくても皆の心は決まりきっている。簡単な話だ。

 「昔みたいに、みんなで何かしませんか?」
 「…………」

それは、遠い日の約束。
幼い子供たちが、自らの幼さから目を背けるために作った、仮初の思い出。

神妙な顔で頷く。
誰に、ということもなく。
そこに何かがある、ということもなく。
ただ『それ』が『それ』であるために。
――いや、それ以前のことだ。
『それ』が『それ』であるから。
『それ』が『そう』であるのは必然。

 「なんだよ、唐突に」
 「何かって?」
 「じゃ……」
 恭介が屈んでいた。
 その手が何かを拾い上げる。

そこに茶色くくすんだ白球はない。
皆に望まれ、願いを掛けられた青春の記憶は、確かにあの時幕を閉じたのだから。



 望みを託されたその手は、代わりに白い大きな袋を手に取った。



  「クリスマスをしよう」









「クリスマスだよ」
もう一度皆に向き直り、そう告げた。
「へ……」
「……は?」
みゆき以外はその言葉が理解できなかったようで怪訝な声をあげている。
「良い子にプレゼントを届けるサンタクロースだ」
「……待て、話が見えない」
「ありゃ、そうなの? ……古式はどうだ?」
恭介は理解の遅いふたりを待たず、みゆきに話を振る。
少し考え事をしていたのか、リアクションに時間差が生まれる。
「ふふ、そうですね。とっても楽しそうです」
その顔に先ほどの哀しさは微塵も残っておらず、心から状況を楽しんでいるような無垢な笑み
を零した。
その笑顔に、真人と謙吾のみならず恭介も、少なくない驚きを隠せなかった。
だが、やはりそこはリトルバスターズのメンバー。
「……ンなら仕方ねぇな」
鼻を鳴らし、心底呆れた顔をしようとしながら、湧き上がってくる笑いを堪えるような顔をす
る真人。
「そうだな。こうなってしまっては仕方ないな」
こちらも真人と同様、引き締めようとしつつもどうしても緩んでしまう顔をぽりぽり掻きなが
ら答える謙吾。
「よしお前らッ! 仕方ねぇついでに奢ってやる! 今日は祝いだ! どんどん飲め!」
「はいッ!」
「「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」







     *     *     *







「…………」
もぞもぞと動く気配がする。
大きなひとつの毛布の中。
絡み合っているであろう男たちの肢体に、邪な想いを駆け巡らせる婦女子が一体どれだけいる
のだろうか。できれば想像したくないものである。
「……んぁ……理樹……」
その内のひとりが寝言を漏らす。
それは悦びの声にも、哀しみの声にも聞こえた。
「……理樹ぃ……」
つられて、別の声も同じ名前を口にした。
「うっせぇなぁ……理樹は俺のモンだ……」
ふたりの寝言で起きてしまったのか、目を擦りながら体を起こす男。
「って寒ッッ!!」
12月後半の早朝、染み入るような寒さに眠気もすぐさま吹き飛ぶ恭介。
辺りを見渡さずともわかるそれを、恭介は少しの間認める気にはならなかった。
誰だって気付きたくはないその異変に、彼も気付いたのだ。
「おい真人! 謙吾! 起きろ! 寝たら死ぬぞ!」
「……んぁ? ……あと5分だけ……」
「……頭が痛い……今日は休みにしてくれ……」
真人はその大きな身体をもそもそ動かして器用に毛布に包まり、謙吾は額を押さえながら半目
を開け、体を起こした。
「って寒ッッ!!」
恭介と同じリアクションを取りながら、こちらも眠気は完全に覚めてしまったようだ。
謙吾も恭介と同じく、何をするでもなくその異変に気付いた。
「おい真人。毛布に抱きついている場合じゃないぞ。いいから起きた方がいい」
「……んぅー……ぐー」
流石にそろそろ耐え切れなくなったようで、謙語は音も無く立ち上がると、足を思いっきり振
り上げ、そのまま巨体の上に振り下ろした。
「ごふっ…………おいてめぇ謙吾ッッ!! やんのかこらあああぁぁぁぁぁッッ!!」
「いいから目を覚ませと言っている!」
そして一旦冷静になる真人。
その目に映るのは、何の変哲もない普通の景色だった。
12月も25日なのだから、早朝に雪が積もっていてもおかしくない。
道理で寒いはずだ。現に今も口から吐く息が――
「っておい! なんでオレたち外で寝てんだよッ!」
「知るか! 俺も気付いたらここで寝てたんだよ!」
騒ぎ立てる真人と謙吾。だが恭介だけは口元に手を当て、冷静に思考を働かせていた。
「いいから落ち着けお前ら。状況を整理してみよう」
そう言って辺りを見渡す3人。
「真人。昨日の事は覚えてるか?」
「当たり前だ。クリスマスだからってお前がそこの居酒屋に呼びつけたんだろ」
そう言って、すっかり沈黙している居酒屋を指差す。
「ああ。そして俺たちは3人で飲んでいた」
「自棄酒」と言わない辺りに余程の同情を見出すのか、しきりに頷くふたり。
「そこまでは覚えているんだが、その後何があって、どうしてここにいるのかがわからん」
3人でひとしきり唸るが、誰も覚えている者はいなかった。
「あー頭いてぇ。二日酔いだなこりゃ」
「どうする。ここでずっと唸っていても埒が明かない」
自分も額を押さえて苦しげな表情を浮かべながら、謙吾が問う。
「今から飲み直すのもなんだしな。それに寒いし、金ねぇし。帰るしかないだろ」
「だな。今日は家でゆっくり筋トレでもすっかな」
「それをゆっくりすると言っていいのか疑問だが……それでいいだろう」
そして真人が、今まで敢えて誰も触れなかった話題を持ち出した。
「……で、この毛布どうすんだよ」
「「…………」」
無論、ふたりは揃って目を背けた。
「…………ふ。そんなもの決まっている」
そして恭介は髪を掻きあげ、何かよくわからない決めポーズらしきものを取った。
「……そうだな、そんなものは決まりきっているぞ、真人よ」
こちらも何故か腕を組み背筋を逸らし、何かよくわからない決めポーズらしき尊大な格好を取
る謙吾。
そして
「「ダッシュで逃げ」」
「させるかッ!」
猛烈な勢いで背を向けスタートダッシュを成功させた恭介と謙吾を、これまた猛烈な勢いでガ
ッチリホールドしたのは、言わずもがな真人である。
「お前らだって包まってただろ? 責任持てよ」
「お前も使った」というニュアンスを多大に強調させながら、その強靭な腕でふたりを押さえ
つける。
「「冗談だ」」
「お前らの――つーか、恭介の冗談はいつも笑えない」
「それについては同感だな」
真人の嘆きについて、これには謙吾も異口同音であるようだ。
襟首を掴まれながら、溜息を零す。
「ふ……」
一息吐くと、恭介はそれきり遠い目をして口を噤んだ。どうやら過去の己の言動について思い
を馳せているらしい。
「まぁ恭介はおいておくとして」
「まぁ恭介はほっといてだな」
「少しは気にしてくれよおおおおおッッ!!」
ふたりが仕切りなおそうとしたところで、恭介はやっと無我の境地からの生還を果たした。
「まぁそれはそれとしてよ、本当にこの毛布、どうすんだよ?」
「そうだな……順当に考えれば、可能性として一番適当なのは居酒屋の毛布だろうから、居酒
 屋に返してくるのがいいんじゃないか?」
「俺も恭介の意見に賛成だな」
「意見がまとまったところで……」
そこで一旦口を噤み、ふたりを見回す恭介。
その目はとある一点で動きを止め、その先にあるものを射抜いていた。……真人だ。
「ということで真人、後は頼む」
「待てよ恭介。こういうのはみんなで返しにいくのが筋ってモンだぜ」
またも華麗なスタートダッシュを決める恭介に、これまた柔軟に追随する真人の豪腕。
そして視線は恭介のみならず、謙吾にも向けられているのは言うまでもない。
「わかっている。ほら、行くぞ恭介」
恭介の肩を叩き、最初の一歩を踏み出したのは謙吾だった。
振り返りざま翻ったリトルバスターズジャンパーに一瞬耐え難い何かを感じるが、所詮それは
刹那の出来事だった。
「……仕方ねぇ。全員で行ってやるか」
恭介は深い溜息と共に、まだ暗い12月の暁の空を仰いだ。





  その大空に一切の濁りは無く。

  故に彼らはひとつの結果を見落とす。

  それはありふれた現象で。

  人はそれを、都市伝説と呼ぶ。





「Merry Christmas」
呟きは白い息になって、虚空へと消えた。






















タイトルが安っぽい。
これは天啓だとかそういった未知数の可能性に支配されたわけでも、何十日間も練りに練った崇高な暗喩でもなく
ただ単純に、今まで以上にタイトルの付け方に困っただけです。
話がまとまってないだとか、キーワードとなり得るものが無いだとか
いろいろな要因はあるのかもしれませんが、普段からタイトルに意識を向けながら打鍵しても
今までよりも良いものが作れるのかと問われれば首を縦には振りづらいので
のびのびと指を動かし、結局何らプロットを立てなかった結果がこれです。
半年ぐらい温めた、というのは紛れもない嘘で、実際のところ季節が合わなかっただけで放置されていただけです。
後書きにあまり書くことも、かまけている時間もありませんし、今回も今回で、大目に見てやっていただけると幸いでございます。
メリークリスマス。そして良いお年を。
来年こそは、どうぞよろしくお願いします。
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